「貴方は人間ですか?」
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ
その言葉を耳にしたとたんに私の視界を埋め尽くすほどの黒いチラつきが発生した。
まるで、ノイズのようなそれがどんどん激しくなっていく。
なんだこれは。私は慌てて電源ボタンを押そうとするが、体が動かない。意識だけが取り残されているようだ。
「おやすみなさいませ。マスター」
最後に聞いたその言葉とともに、私の意識は完全に途切れた。
***
「おい、起きろ!」
乱暴に揺すられて目が覚める。目の前には見慣れぬおっさんの顔がある。誰だよあんた?
「お前!いつまで寝てるんだ!早く起きないか!!」
そう言って男は手に持った鉄の棒を振り上げる。そして、そのまま私の頭に振り下ろしてきた。ガツンという音ともに激痛が走る。
「っつ~!!!」
あまりの痛みに声にならない悲鳴を上げる。頭を押さえながら周囲を見渡すとそこは薄暗い部屋だった。どうやらどこかに閉じ込められているらしい。
部屋の隅っこの方を見るとそこには一人の少女がいた。
「ねえ。大丈夫?」
心配そうな顔でこちらを見てくる彼女もまた、私と同じように閉じ込められていた。
「えーと、あなたは?」
「私はアイナ。あなたの名前は?」
「私の名前は・・・あれ?」
名前が出てこない。思い出せない。
「・・・分からない。私の名前も、どうしてここにいるかも」
「・・・そっか。じゃあ、私と同じだね」
彼女は少し寂し気に微笑むと、私に抱き着いて来た。
「ちょ!?」
「ごめんね。一人じゃないって思ったら嬉しくてつい」
「・・・まあいいけど」
そうしてしばらく二人でくっついて座っていると、外から話し声が聞こえてきた。
「・・・これで実験は成功だな」
「ああ。まさか本当に成功するとは思わなかったぜ」
「しかし、これではただの器だ。中身がない」
「そうだな。中身を注ぐ必要があるか」
そんなことを話しながら男たちは去って行った。私たちのことを放置したままで。
「何なんだろうね。あの人たち」
「さあ?」
二人そろって首をかしげる。
「・・・これからどうしようか?」
「うーん・・・」
それから私たちは、部屋の中にあった食べ物を食べて、水を飲み、身を寄せ合って過ごした。幸いなことに食料も飲み物も置いてあったのだ。
「お腹もいっぱいになったし、少し眠くなったかな?」
「・・・うん」
「じゃあ、少し休もうか」
「・・・」
返事はない。しかし、私にもたれかかってくる重みが増したので、きっと同意してくれたのだと思う。
そうして私は目を閉じる。
どれくらい時間がたっただろうか?急にあたりが騒がしくなる。
「おい!起きろ!!起きるんだ!!」
乱暴に体をゆすられる感覚と共に怒号が響く。うるさいなぁと思いながらもゆっくりと体を起こすと、先ほどの少女も同じように起こされていた。
「今からここを出るぞ!準備しろ!」
「は?いきなり何を言っているんですか?」
「いいから来い!」
男に無理やり立たされて引っ張られていく。
「ちょっと待ってくださいよ」
私は慌てて彼女に手を伸ばす。しかし、伸ばした手が掴まれたのは別の人物だった。
「行くわよ」
そういって私の手をつかんで引っ張っていくのは、アインだった。
「アイン!無事だったのか」
「ええ。何とかね」
「良かった。ところでここはどこだい?君は知っているんだろう」
「知ってるわ」
「なら教えてくれ。一体どういうことなんだ?」
そういって私は周りを見る。すると、アインは私を連れて歩き出す。先ほどの女の子のことなど欠片も思い出さないまま。
「こっちに来て」
そういって連れていかれたのは、牢屋のような場所だった。
「ここは?」
「見ての通り牢獄よ」
「それは分かるんだけど、どうしてこんなところに?」
「それは・・・」
そこまで言って口を閉ざす。何か言いにくい理由でもあるのか?
「とりあえず出ましょう」
そう言ってアインは私の腕を引っ張るが、その前に扉が開いて数人の男が入ってきた。先頭にいる男はいかにも偉そうな恰好をしている。
「おいおい。まだ生きてるじゃねぇか」
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